第4章 strategie④
その後の撮影は正直身が入らなかった。
光一とのセリフのやり取りにわたしは胸がドキドキしていた。
彼の吸い込まれそうなキラキラした瞳を前にして、妹でいれる訳がない。
しかしあんなことがあった後でも光一は動じることなく、いつもの調子でスタートがかかった瞬間空気をガラリと変えてくる。
わたしはそんな彼の姿を見て、プロだと思った。
カメラを前にして怖くて震えが止まらないわたしとは全く違う。
堂々とした姿勢で吸い込まれる程のオーラをまとっている。
10代のころからトップで走り続けてきた人はこうも違うのかと、絶望する程だ。
こういう人を相手に戦わなければいけない世界にわたしら自ら挑戦しているのだ。
しかし、さっきの出来事が頭から離れてくれない。
光一の指先の熱がまだ体に残っている。
それを思い出すだけで、恥ずかしいことに頭がぼーっとする程掻き乱された。