• テキストサイズ

strategie

第8章 strategie⑧



会場に流れていたのは静寂のみだった。

ヒロカは始めて客席に、世間に刃向かったのだ。


ギロリと憎しみの目を込めて睨まれた俺ら観客は、どうすることもできなかった。


なぜなら、確かに彼女を好奇の目で見つづけていたからである。

罪悪感があるのだ。


それからゆっくりと照明が落ちていき、暗転。
そのあとパッと客電がつく。

気がついた時には物語は終わっていた。



観客は完全に取り残されていた。


観客たちは拍手することも忘れ、ただただ呆然と舞台を見つめている。


カーテンコールになり、役者たちが登場してきたとき、俺はとてつもない安堵を感じたのである。
他の観客も同じ気持ちであったに違いない。


そう。

ヒロカが少女のような可愛い笑顔で出てきたのである。


最後に憎しみの目で睨んで死んでいった彼女が、少し恥ずかしそうに笑いながら小さくぺこりとお辞儀したのだ。


客席はやっと救われた思いで、全身全霊を込めた拍手を彼女に送った。

鳴り止まない拍手に俺は、感動で胸が震えた。


なんて奴なんだ。


どこにでもいそうな普通の20代の女が、みんな愛おしくて仕方なくなった。

スキャンダルなんてもうどうでも良かった。


目の前で繰り広げられていた彼女の表現に圧倒され、感動し賞賛の思いでいっぱいだった。



ほんまにすごい。

よくやったな。

ありがとうな。


これがずっと見たかったんや。
この光景。

ほんまに最高の女や。


滲み出る涙を堪えて俺はいつまでも舞台上を眺めていた。



/ 119ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp