第1章 strategie
舞台が終わり外にある喫煙所で俺は一服した。
クラクラしている。
車酔いをしたみたいに。
ストーリーは正直覚えていない。
この舞台が面白いのか面白くないのか俺にはよく分からない。
というかそんなことはどうでも良かった。
俺の目線の先は#中村##ヒロカ#しか映っていなかったから。
ころころ変わる表情。
時折見せる全てをなくした人形のような瞳。
子どもみたいな無邪気な笑顔。
ナイフのように突き刺す冷たい声。
人魚のような美しい指先。
彼女が生み出すひとつひとつの仕草や息遣いはとても芝居には見えなかった。
そこに確かに生きているのだ。
表現者として、人間として、一人の男として、敗北感すら感じた。
他人はどうでも良い。俺は自分を高めることだけを考え続けていたアスリートだったが、初めて嫉妬心を覚えたのだ。
この感情をなんと呼べばいいのだろうか。