第5章 three
「おい、胡蝶。なに泣いてんだ馬鹿が。」
目を開けると、またアヤト。
けど、さっきの夢の余韻に浸りたくはなかったから丁度よかった。
っていうか、何泣いてるの...私...
「うん...ごめん。もう起きるね お風呂入ってくる。」
「ベッド貸してやったんだから礼ぐらいしろよ。」
「ありがとう。」
無表情であまり感情のこもっていないお礼を言うと、アヤトは不満そうな顔をして舌打ちを打った。
けど、そんなアヤトは無視してお風呂場にむかう。
さっきの夢...嫌な夢だった
何で今更お父さんとお母さんがでてくるの
もう捨てたはずだったのに
もう忘れたはずだったのに
お風呂場に向かう途中も、お風呂中もずっとそんな事を考えていた。
このアオギリの樹に入るまでは、お父さんとお母さんの事が常に頭に浮かんでは殺害された場所に行き絶望して帰ってくる日常だった。
父と母が死ぬところを見ていないから、微かな希望でも持ちたかったんだろう。
今考えると、なんて馬鹿な事をしていたのだろうとつくづく思うけどね。