第7章 Secret Circus
坊っちゃんの部屋に入ると、坊っちゃんはベッドに横になっていた。
呼吸が荒く辛そうな坊っちゃんに私は何も言えずにいた。
「確かに坊っちゃんは嘘や秘密が多くていらっしゃいますよね。坊っちゃんが幼少のみぎりからの持病をお持ちとは私も存じ上げませんでした。何故お話し下さらなかったのです?」
「聞かれなかったから答えなかっただけだ。それにもう治ってる」
確かにセバスチャンが執事として就いてから発作は起きていない。
けれど…油断していた。もっと強く止めるべきだった。
私はお湯をボウルに移しタオルを浸し温めた。
「さようでございますか。しかし気を付けるに越した事はありません。今度喘息についての医療書を読んでおくとしましょう」
タオルを絞りセバスチャンに渡す。
「それも美学か?」
「どんな事態にも対応できてこそ執事ですから」
セバスチャンが坊っちゃんの体を起こし服に手をかけたのを見て、私は後ろを向いた。
「そんなことより紋章院で調べてきたことを早く報告しろ」
「紋章院…。あのホールマークの持ち主の事ですね。ケルヴィン男爵と仰るそうです」
「ケルヴィン?」
坊っちゃんはその名に心当たりがあるようだ。
そして、私もその名に心当たりがある。
「ご存知なのですか?」
「僕は事前活動家とやらは好かないから直接の知り合いではないが、確か“先代”に連れられて行ったパーティーで挨拶ぐらいはしたような…。そういえば、あのパーティーでお前もいたな、ネイラ?」
「はい。私も挨拶しかしておりませんので、あまり記憶には残っていませんが…」
「まあいい名前さえわかれば十分だ」
胸元のリボンを結ぶのを横目で確認し、お止めすることも叶わず私は主人の命に従うしかなかった。
「出かけるぞ」
「「イエス・マイロード」」