第7章 Secret Circus
「…申し訳ありません。ネイラ殿…」
その謝罪の言葉は私のぶつけた思いにか、今起こったことについてか、わからなかった。
私は今、アグニさんに抱きしめられていた。
何が起きたか、それはすぐにはわからなかったけど、目の前に広がる黒と鼻先を掠める香辛料の匂いで知った。
突然の行為でまったく反応できなかった。
異性に抱きしめられる、という行為事態ほぼ初めてのことでどうしていいかなどわかるはずがない。
何か言わなければ…そう思って口を開こうとも肝心の言葉が出てこない。
口を開けたり閉じたりと繰り返していると、絞り出すようにか細い声が聞こえた。
「…申し訳ありません。ネイラ殿。貴方もセバスチャン殿も本当に良い方達で、私共は良くして頂きました。私も仲間として友だと思っています。しかし、そんな貴方が女性とは気付かず、あまつさえ私は………」
その先に続く言葉が予想できて、羞恥のためかそれとも…、私は声を発していた。
「…アグニさん…苦しいです」
「!…も、申し訳ありません…!」
腕の中から解放され彼を見上げれば、戸惑いと羞恥が入り交じった顔をしていた。
その様子が面白いな…とか思ったり…。
いやいや、何を考えているのだ私は。
私が知りたいのは。
「…これからも私のことを仲間として友として扱ってくれますか?」
確かな答えが欲しい。
失いたくないのだ。初めての友だから。
目を合わせるのが怖いだなんて初めてだ。
沈黙が怖いのも。
だけど、上から降ってきた声はとても優しかった。
「当たり前です。私の方こそ仲間として友としてよろしくお願いいたします」
嬉しかった。心の底から嬉しいと思った。
「早速ですがネイラ殿、夕食の仕度を手伝って頂けますか?」
はにかみながら問いかけてくる言葉に私は頷いた。
「はい、もちろんです!」