第7章 Secret Circus
バスルームに入ると大きな鏡の前に立つ。
後頭部に手を回し、リボンの端を引っ張ればまとめていた髪が肩口に散らばる。
少し伸びてきたか…。
目の前に映る自分を見れば肩に付くか付かないかぐらいだった髪の毛が鎖骨あたりまで伸びていた。
そろそろ切らないと。
そう思いながら身に付けているものを脱いでいく。
ワイシャツの前をはだけさせれば胸元に巻かれた白い包帯。
それを外せば私が“女”であることを象徴するものが現れる。
別に女であることが嫌なわけではない。
ただ、坊っちゃんの執事でいるには邪魔なのだ。
そして、その下に目をやれば左の脇腹に刻まれた契約書が一つ。
指先でなぞる。
白と赤しかない私にとって唯一の色であり、私を蝕み縛り付ける鎖だ。
全てを脱ぎ捨て湯船に体を沈める。
肺に溜まった空気を全て吐き出すように息をつく。
「お疲れのようだな。姫サマ?」
背後から声がした。反響具合を考えれば珍しく出てきているのだろう。
「…珍しいね。貴方が出てくるなんて…。リオン」
頭を後ろに反らして見れば逆さに映る、何か企んだような笑みを口許に浮かべた悪魔がいた。
「別に?姫サマの為なら俺はいくらでも出てくるぜ」
セバスチャンとは違いこの悪魔は本当のことを言うとは限らない。
それでも、この悪魔の力が私の力だ。
どんなに性格に問題があろうと私の願いの為に必要なのだ。