第7章 Secret Circus
「だから、なんで僕までサーカスに入団させられることになってるんだ!」
坊っちゃんがベッドの上に脱ぎ捨てたコートを回収しながら心の中で坊っちゃんに同意する。
「入団“させられる”のではありませんよ。入団テストを受けて入団“させてもらう”んです」
「そういうことでは無く、坊っちゃんはファントムハイヴ家当主ですよ?そんな立場の方にサーカスなど…」
「お前だけ潜入すればいいだろう。テント暮らしだなんて冗談じゃない」
「それでよろしいのてすか?貴方の命令ではなく、私自らの意志で行動しても?」
セバスチャンは余裕の笑みでそう言った。
失念していた。悪魔は、契約を結んだ悪魔は、単独で行動できない…と、いうことを。
「……そうだったな。だが、サーカスに必要なのは芸だろう?僕は芸などできないぞ」
「でしょうね」
芸…私ができること…家が家だったのと、坊っちゃんの執事としての時間が長く芸と呼べるものは私は何一つ無い。
「まあ、せいぜい明日の入団テストは頑張って下さい。私も執事として心より応援申し上げます」
「………仕方ない。僕も入団するとしよう」
芸ができない私に残されたのは…この“白”か…。
私のこの思いを感じ取ったのか、坊っちゃんは今回も残酷な命令を私に下した。
「ネイラ。お前はここに残れ」
「……何故でしょう…?」
「お前のその“白”は確かに奴等の目に止まるだろう。が、お前のそれは僕だけのものだ。だから、もう一度言う。ここに残れ」
悔しかった。私は坊っちゃんの執事なのに、ずっとお側にいたから坊っちゃんがどんなに憎まれ口を叩かれても心がお優しいことを知っている。
だけど私は坊っちゃんの役に立ちたい。
だから、この白も使ってくれてもかまわなかった。
執事だからこそ主である坊っちゃんの命令は絶対だ。
「…御意」
私とセバスチャンは頭を下げ部屋を後にした。