第26章 行ってらっしゃいとおかえり
ジャーファルside
「んー…さて、と。」
思い出に浸るのも大概にして、そろそろ仕事に戻らなくては。
いくら期限が切れたものが終わったと言え、今日の分が手付かずだ。
…本来なら休憩してる暇などないというのに。
どういうわけか、この場所に来たくなったのだ。
「…いないのに、ね。」
自分で言ってて少し…いや、だいぶ心にくるものがある。
私は今、ひとりなのだと。
私はシンドリアに貢献せねばならぬ人間で、シンの側近。
もしかしたら、恋などにうつつを抜かすべきでは無かったのかもしれない立場だ。
…けれど、やはり。
「私と出会ったことを、無かったことにしないで欲しいんだ。」
そう言った彼女の願いを叶えたい。
というか、私もそれを願う。
だから、思い出に後悔の念を抱かないように。
思い出は思い出のまま、綺麗に残しておきたいから…。
誰にも何も言われないように、強くあろう。
だからどうかあなたも。
「強くあってください…セリシア。」
今彼女がどうしているのか、私にはほとんど情報が入っていない。
バルバットにいた頃はもちろんだが、今も文通などしていない。
…彼女が私に手紙を送らない理由は、彼女がこの国を発つ時に残した手紙に書いてあったから、不安になるわけではない。
情報は1度だけ、ヤムライハが教えてくれたのだ。
どうやら数ヶ月に一度文通のやりとりをしているようだった。
私も積極的に話を聞きに行くことはしなかった。