第8章 “たまる”
「本当にそれだけか?」
「……はい。」
エルヴィンの怒っているような、
困っているような表情を、視界の端で確認する。
エルヴィンは何でこんなに
問い詰めて来るんだろう。
さっきから初めて見る表情ばかりで
動揺する心を抑えきれずにいた。
エルヴィンは小さく息を吐くと、
「……すまない。それならいいんだ。」
そう言って私から視線を外した。
エルヴィンの表情から、
少し力みが取れたのを見て
「……どうしたの?」
と、問いかけてみる。
「いや。何でもないんだ。
君が何もなかったなら、それでいい。」
何でもない、
という表情には見えないけど……
無理に笑って見せるような
エルヴィンの表情に戸惑いながらも
これ以上問い詰めるのも違う気がして、
言葉を止めた。