第10章 奔放な我慢
「まさか飛ばされてきた先で、
こんなに笑えるとは思わなかった。」
「……私もだよ。というか、
こんなに笑ったこと自体、かなり久しぶり。」
声を上げて笑ったことなんて、何年ぶりだろう。
就職してから毎日を慌ただしく過ごしていて、
あまり自分の時間が持てず、
仲の良かった友人とも疎遠になり
気の合う友達と食事をすることさえも、
ほとんどままならなかった。
そんな日常生活を送っていると、
腹の底から笑う、という言葉の意味すら
理解し難いものになっていた。
「俺は、こんなに笑ったこと自体、
初めてかも知れない。」
「……それは言いすぎでしょ?」
「いや。そんなことはないよ。」
エルヴィンの腕の力が弱まり、
身体が解放される。
長い間抱きしめられていたこともあり、
一気に身体の熱が引いていくのを、
少し寂しく感じた。