第10章 西海の鬼は悪鬼ですか?
「…っ、し、失礼します」
「あ、おい、もしかして、アンタ」
「違いますからっあの、私はごく一般的な」
「おっとちゃんそんな焦ってどうしたの?」
運よく佐助が割り込んでくれて助かった。元親は腑に落ちなさそうな顔をしているがあまり無駄なことは言うなと佐助に目線で黙らされたらしい、何も言わなくなった。
佐助は少し機嫌が悪そうに元親を見ていたがに視線を戻して
「部屋に戻ってな」
とだけいって背中を押した。戸惑って振り返ったが佐助は安心させるように頷いてくれた。
きっと元親と話をしたいのだろう。
素直に部屋へと向かった。
「おい、猿飛」
「なに、もしかして武田の女中にまで手を出そうとでも思ったの?」
見境ない獣かよ、と佐助は元親を思い切りにらみつけた。今すぐにでも殺り合いが始まりそうな、そんな只ならぬ雰囲気だったが佐助は苦無を照ることなくただ殺気だけを出していた。
「…程々にしてくんない?俺様の仕事増えるんだけど」
「……あの女、女中じゃねぇだろ?どっかの姫サンか?」
「だったらどうする」
元親は怯むことなく怪しい笑みを浮かべる。
「何処の国の姫だろうが何処の寂れた町の娘だろうが関係ねぇ、俺ァが気に入った」
それを聞いて佐助も口の端を釣り上げて張り付いた笑顔をだす。
「残念だけどあの子は真田の旦那のお気に入りなんだ。何処に連れて行こうだなんて思わない方がいい」
元親は少し意外そうな顔をしたが、ははっと大きな声で笑った。
「宝ってのは取り甲斐がなきゃ面白くねぇよなァ…」