第10章 西海の鬼は悪鬼ですか?
元親とはいろいろな話ができたようだ。
海上での話や、今まで何処へ行ってきたのか、そして元親の国はどんなところなのか。
話を聞いていれば、豊かで人々が楽しく過ごしている様子が脳裏に浮かんだ。国主がこういう人なら国も自然とそんなふうになるのだろう。
「民は家族であり、俺にとっちゃ一番の宝ってところだな」
「元親さん、すっごいいい笑顔です」
「あ?そうか?」
眉間にしわを寄せる顔は思ったより迫力があったが優しい人なのには変わりはなかった。この様子を見ていれば徳川とのいざこざは先だろうなと少し安心した。
「にとっての宝って何だ?」
「え?私の?」
これは聞かれると思っていなかった。
にとっての宝、それは平成か戦国でか。口に出してしまったらどちらかに執着してしまうような気がして怖くてすぐに声を出せなかった。
「…沢山あるみてェだな」
「…はい、もう言葉に出せないほど!」
元親は何故そう口を挟んでくれかは知らないがきっと答えられない私を見て変なことを聞いてしまったとでも判断したのだろう。あまりいい顔はしていないようだ。
「にしても…ほんとうにここの女中か?」
「何でですか?」
「いやぁ、女中にしては手が随分ときれいだなって思ってよ」
一瞬元親の目が優しい近所のお兄さんの顔ではなく、何かを狙うような怖い目をした。それも一瞬だったので気のせいかと思ったが何やら様子がおかしい。
もしかしたら気が付いたのだろうか、異質の存在に。
は少し怖くなった。