第10章 西海の鬼は悪鬼ですか?
そのあと告げられたのは昼までには元親に挨拶に向かえということだった。
別に苦痛というわけでもないし喜んで向かうことにしたが、一体どんな格好で行ったらいいのかよくわからなくて、自室を掃除するときや朝に道場へ向かう時に借りている女中用の着物を着て裏庭でうろうろしていた。
すると後ろに誰かの気配を感じて振り返ってみるとそこには
「……え、えっと」
「…取り込み中、だったか?」
元親がいた。
なんてことだ、は心の中で思いっきり地団太を踏んでいた。きちんとした格好で出向かなければならないと思っていたのにまさかこんな格好で会うとは思わなかった。
他に客人が来た時には女中姿で会わないでと佐助に言われているのにもかかわらずその姿を見られてしまうとは。
きっと佐助はが女中姿でうろうろしているとサボっている女中に見えてしまうのでそういったことは避けてほしいということだったのだろう。きっと元親にもそう思われた、はもう何が何だかよくわからなくてじっとしているほかなかった。
「休憩中か?」
「そ、そんな感じです」
もうこれは女中ということで話を進めるべきなのか、きっとそう思われているんだったらそれでいいかと、今はこれで逃れようとあまり長話をしないようにしていたのだが
「なら俺に付き合ってくれよ」
と言って腕を引かれて廊下から足をぶら下げて座る羽目になってしまった。
こんな姿を佐助に見られたら怒られるんだろうなと戸惑っていたがその時はその時かと腹をくくった。
「アンタ、名前は」
「と申します」
「へぇ、俺ァ長曾我部元親、元親でいいぜ」
「あっ、は、はい」
アニキ!アニキィィィ!と叫びたくなったがこの姿ではだめだ。いやちゃんとしている着物の方がだめなのだが駄目だ、抑えなければと元親のニカッと笑ったその顔を見て理性と必死に戦う。