第10章 西海の鬼は悪鬼ですか?
「佐助さああああんっ!」
「だああ大声出さなくたって聞こえてるっての!」
シュタッとの目の前に瞬きする間に飛び降りてきてくれたのは佐助だ。
はひどく興奮した様子で佐助はめんどくさそうな顔をしたが、ここで去っては後の方がめんどくさいような気がするのでなんですかぁとそれはもうやる気のなさそうな声で言った。
「い、今ねっ長曾我部さんと話したの!」
「見てた見てた」
「凄いね!腹筋とか、胸筋とか、なにあれっ」
「知ってる知ってる」
「ねぇもう聞いてる?!凄かったんだってばぁ!」
鼻息を荒くして佐助の肩をつかみぐらぐらと揺らしている。呆れたように笑いながら合図地をうっているもののこれは来ていない顔だなとはムッとした。
だが呆れるのも無理はない。佐助はああいった武将を何度も見たことがあるし、そんなに珍しいものじゃないのだ。
「はぁー…すごかった、本当に凄かった食べたかった…」
「…人肉趣味?」
「違うっカニバリズムには興味ない!」
かにば…?と首をかしげているがそれの意味がなんとなくわかったのであはは、と誤魔化す。
「さっき叫びそうになった…」
「なんて?」
え?それいう?と言いたいような顔をして佐助を見ると、それもなんとなく察したのかため息をつく。
「最近溜息ばっか、それ、幸せ逃げるのに」
「はぁ?幸せ?」
しばし沈黙があった後、は余計なことを言ったかと少し顔をこわばらせたが佐助は別にそういったつもりではなかったのか突然腹を抱えて笑い出した。
は驚いてその様子を不思議そうに見ていると佐助は
「…まだ逃げていく程の幸せがあったんだね」
と言って頭をなでられた。
は突然の事に驚いてまた動けなかったが、あんなにやさしそうに笑う佐助は初めて見たような気がした。