第9章 初めましては煩くなります
一目見てみたいとは思ったのだが叫ばずにはいられないあの言葉。きっと視界に入ったら思わず叫んでしまうと思うので今は我慢する。
「あーはよ、はよ一日終わってくれぇ…」
「殿っ殿―――っ!」
まだ寝るまでには時間があるのだが布団(といってもタオルケット)を準備し蹲っていると、遠くから幸村が呼んでくる声が聞こえた。
残念ながらもうは出る気などなくジャージに着替えてしまい顔を出したくないのだ。万が一ここでふすまを開けて応答してしまったら元親に会わなければならないかもしれない。
夜分遅くに叫ぶだなんとことはしたくないと蹲る。
幸村がふすまの前に来て何回かの名前を呼ぶが、反応がないのであきらめたらしいため息をついた。
よっしゃ!と寝返りを打とうとすると
「殿っ起きていらっしゃるのですな!開けますぞ!」
「は、ね、寝てる!!私!今寝てて」
「いえ起きておられますな!たった今宴が始まりましたゆえ!」
きっと元親の歓迎会だろうと察しはついた。
幸村の事だから殿も仲間です故―とかんとかいって宴に参加させる気でいるのだろう。だが生憎は酒の匂いが苦手だ。あれだけで喉の奥が熱くなるし、何より酔った人の相手をするのが面倒なのは平成でよく学んでいる。しかも自分だけ飲まなければ素面で浮くし、それは嫌だとタオルケットに包まったままだ。
「殿、存じて居られるようですが長曾我部元親殿がいらしたのでござる」
「うん、知ってる」
「本日はその歓迎会でござる」
「知ってる」
「なので是非とも参加してほしいとお館様からの」
「もう寝る体勢入っちゃったんですもん」
ですが、と渋る幸村を無理矢理外に押し出してふすまをぴしゃんと閉めた。
自分勝手な行動なのは承知の上、だが元親を目の前にすればあの言葉を叫んでしまう。なんせゲーム画面の前でも叫んでしまうくらいなのだから。