第9章 初めましては煩くなります
その後、幸村は仕方なくの部屋を後にし、宴会場に戻ってきた。
「あれ?旦那、ちゃんは?」
「体調が優れぬようだったからな、無理に参加させずとも良かろう」
それを横で聞いていた元親はなんのことかと酒を片手に幸村の横に立つ。
「なんかあったのか?」
「あ、それが武田の客人としておりますおなごが体調を崩してしまいまして」
おなご、と聞けば元親は輝いたような笑みを見せた。海上での暮らしはどうあがいても男だらけだし、武田も似たような物なので女中以外にこの館で見ていないのだ。
客人だとしてもこの宴に参加してくれるのであれば一度でいいから見てみたいと思った元親。
「体調って、熱でも出してるのか?」
「いや、気分が優れないと」
「そりゃ男ばっかだからいずれぇだけだろ!」
そういった元親は宴の席から立ち、幸村を押しのけてどこかへ行こうとした。
今は戦をしていないと言ってもどうあがいても敵なのだ。あまりうろうろしてもらうのは困ると佐助が元親の目の前に移動した。
「あのさ、人様の屋敷内を勝手に歩かれちゃこっちとしても困るんだよねー」
「俺ァ戦の為の情報を集めようなんざ思ってねぇよ、その客人の顔を見てきたいんだ」
そういって佐助をも押しのけて進もうとする。
元親の行動には幸村と佐助以外は気が付いていないようだ。恐らく信玄も気が付いているようだが口出ししないところを見れば気概がないと判断しているのだろう。それでも自分勝手な行動は控えてもらいたいと佐助は元親をにらみつける。
「そんなに見られたら困る程の別嬪さんなのか?」
そういえば佐助はさぁね、と余計に口を開こうとしなかった。この時代情報は武器だ。小さな情報も敵に流すわけにはいかない。
しかもは異世界の住人だ。万が一それがばれたら珍しいもの好きの元親の事だ。お宝とか言いながら奪ってしまうではないかと少し恐ろしかった。