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オンナナレさせてみせますから

第1章 日常⇒非日常




…したかと思われた。
なんと、足元にあったコードに躓いてしまったのだ。いつもなら綺麗に纏めておくはずなのに今日に限って散らかしたまんまだったのだ。

「あっ」

察した時にはもう遅く、テレビ画面は目の前。スローモーションのように感じたひと時。
ぎゅっと目をつぶって次に来る衝撃に備えた。

…が、なかなか来ない。
というかとても爽やかな風が吹いているようだ。瞼にかかっている力を少し弱めれば、光が薄い瞼を通り抜けて眼球に差し込んでくる。赤身帯びたそれが居心地のいいもので暫く目を開けずにいた。

「……いやいやいやいや」

我に返り目を開けると、仰向けになって倒れていた。…寝転んでいたに近いのだろうか。
上は青々とした木々があって、顔を横に向ければ草の青臭いにおいが鼻をくすぐった。ここは森だろうか。

「ま、まさか」

咄嗟にポケットからスマホを取り出して電波状況を見てみる。…どうやら県外のようだ。3Gも繋がっていない。
勢いよく立ち上がってあたりを見渡すとキャリーバッグが目に入った。上手く一緒に転がり込んできたようだ。
中を確認すれば食料も生活必需品も服もキチンとバラバラにならずに定位置においてある。

「やば、ちょ…薫、やったよ、私…!」

ここがバサラの世界か!と空気を肺いっぱいいっぱいに吸い込んではぁっと吐き出す。中学生のころに親といったあの山でのおいしい空気と似たようなものを感じる。排気ガスなどがない分空気が澄んでいるということなのだろうか。

そしてハッとする。
まず現在位置、GPSが使えるはずもなく、電波もないとなれば確実にインターネットは使えない、お約束だ。
そして村人、見渡してわかる通りおそらくここは集落からかけ離れている森の中だ。運よく昼間だったからいいものを夜だったら真っ暗。街灯もあるはずがないので明るいうちにここからでなければ命はないだろう。
最後に住むところ、これは当てもなければ金もない。まず村人を見つけなければ泊めてくれるかもしれないという希望さえ持てない。まだ日が高いうちに何とかしなければこれもまた命がない。

「……仕方ない、歩くか」

ここでオドオドしていても何も始まらないのはこちらにトリップしてくる前に把握済みだ。だったら日が高いうちに人を見つけてなんとかしてもらわねば困る。
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