第1章 日常⇒非日常
翌日。
「薫ッ!」
「あっは、本当にやったんだー、はいどうぞ」
渡されたのは食券。彼女らの学校には食堂があり、食券を購入しておばさんに渡すと昼飯だのおやつだのなんだって出てくる。
「…これから毎日やるから」
「え?!わ、私に奢れっての?」
「証明してあげるよ!」
変に火のついたはどうやらやる気になったらしい。
それから毎日さっさと帰宅してはテレビのゲーム画面に向かって突進してみたり頭突きをしてみたりとだんだん額の痣は広がる、というか悪化するばかりだった。
そして2年、6月の下旬、事態は大きく変化した。
「じゃあね薫ー」
「おー、あんま酷くさせないでよー」
わかってますよーと一人家に帰宅していく。
因みにの家はそんなに大きくない一軒家で両親もちゃんと生きている。
トリップをする主人公はなんらかの暗い過去を抱えていたり、家族間に問題があったりするらしいがの家庭は普通だし、人生も至ってそこらへんの人と変わらない。
ただの両親は帰りが非常に遅い。共働きの為学校から帰れば一人っきりだし夕飯の時間に運が良ければ親はいるし、悪ければ一人で食べている。寝る時間には必ず親はいるので防犯面は気にしていない。
「…っし、今日も準備してと、」
今日も昨日と同じようにバッグに荷物を詰め込んで突入準備をする。
いつもと違うのは鞄の形状だ。昨日まではボストンバッグだったのだが今日はキャリーバッグとなっていることだ。あらゆることを考えて想定していたらいつの間にやら荷物が多くなってしまったのだ。
「さて、行きますよーバサラさん…」
ブツブツ言ってテレビの前で構える。はたから見れば不審者だが本人はいたって真面目なので誰も注意しない。いや、いないから誰も注意できない。
よく考えてみればこれも日常と化している。
非日常に憧れていたはコレも日常となってしまうとまた次の新たな不思議な、異様なことを考えたりしなければならない。少し面倒だというのが本音だ。
「今日こそ」
キャリーバッグを抱え、
「トリップを」
テレビから距離をとり、
「成功」
床を蹴り
「させるんだぁッ!!!!」
テレビに突撃!