第7章 新生活も慣れれば日常
「ほら、これなんてどうですか?」
「すご、綺麗!」
渡されたのは簪。花びらのような装飾が施してあり、涼しげな色をしている。この季節にはもってこいだなとそれを見ていると店主らしき人が
「お嬢さん、この辺で見かけないけど何処からきたの?」
と、話しかけてきた。
は困ってしまい、横にいる椿を見た。するとくすっと笑って正直に話して大丈夫ですよと言ってくれた。
「武田様のお屋敷に仕えているのです」
「あぁー!信玄様のね!そりゃあご苦労様。その簪は幸村様の奥方になる人にでも差し上げるものかな?」
「これは私物用にと買うものです、お駄賃をいただきましたので」
そういうと店主はパッと表情を明るくさせて奥の方へ引っ込んでいってしまった。椿と顔を見合わせて首を傾げてなんだろうと思っていると、何やら小包を抱えてこちらに向かってきた。
「こちらなんて、いかがでしょうかね?」
そういってそれを広げると、彼岸花のような硝子細工が乗っているきらきらと輝く簪がひっそりとそこにあった。
まるで誰に買われることを望んでいないような、この一つの物体だけで存在が完璧にあると、そんな寂しげな、それでいて美しさを放っている簪。
「何故、これを?」
不思議に思い、椿が聞いた。
「彼岸花の花言葉はご存知でしょうか?」
この時代にも花言葉なんてものがあるのか?と疑問に思いつつも、には花言葉をいちいち調べるような乙女チック人間ではなかったため、花言葉は知らない。
首を横に振ると店主は申し訳なさそうな顔をした。
「あなたの目は喜びや希望に染まっていらっしゃるが、悲しい思い出があるようで。」
「悲しい思い出?」
「そうお見受けしますよ、例えば、故郷に友を置いてきてしまった…とか」
それを聞き、ハッとした。この店主は、を異質と見抜いているのかもしれないと。