第6章 馴染むって決めたんです
小山田と2人で向かったのは宴の席からかなり離れた部屋だった。ここは幸村の自室なのだという。意外とそこまで大きくなく、の部屋より日当たりがよく、少々大きいというくらいだろうか。
「小山田でございます」
「おお、来たか!」
そう聞こえてふすまを開けてくれたのは佐助だった。初めて顔を合わせた時よりかは幾分かマシな顔つきではあるが、やはりを警戒しているようにも見えた。
それが忍びの仕事なのだろう、仕方ないとは割り切ることにした。
「話とは、なんでございましょう」
小山田が話を切り出すと幸村はこちらに向かって座り直し、その横に佐助が座る。この部屋にたちまち緊張感のようなものが立ち込めてきた。
「…殿、と申されましたな」
「は、はい」
名前を呼ぶのも慣れていないのか、顔をそらしながら話し始める。
「実は、頼みたいことがあってここに呼んだ次第にござる」
咳払いをし、真面目な顔でを見て言った。小山田は何の話か聞かされていないようで、首を少しかしげていた。佐助は知っているのか笑いを耐えるように下を向いて肩を震わせていた。
「恥ずかしながらこの幸村、おなごに全く免疫がなく、…その、こうして話す事もまともに出来ぬのだ」
確かに顔はこちらに向いているようだが目はどこか違うところを見ているようにも思える。
「それで、だな、お、お館様との話し合いで、…その…」
話が突然進まなくなってしまい、言いにくそうに顔をしかめたまま、ついにはわなわなと震えだし何もしゃべらなくなってしまった。いったい何だというのかは喋らない幸村をじっと見るしかできなかった。
すると佐助は呆れたように大きなため息をついて代わりに話し始めた。
「いやね、実は大将にさんを旦那につかせるのがいいんじゃないかって話をしてたんだ。」
「え?!そ、それ女中ってことですか?!」
何もできない女がここにいていい、という意味も含んでるのでついは驚いて身を乗り出してしまった。小山田もそういうことか、と微笑んでいたのには佐助しか気が付いていない。