第5章 ごたいめーん…
そのざわつきや叫び声で気が付いたのか、小山田は幸村の足元へ一撃を食らわせて間合いを取る。すぐさま一礼をし、のもとへ駆け寄ってきた。
「殿、おいでになるのならば一声かけてくれればよかったものを…」
「あぁ、いえ、すみません」
鍛錬に夢中になっている二人を見れば声なんてかけられないし、勝手に佐助に連れてきてもらったから、声をかけなくてもいいかなんて思っていたがやはりよくなかったか。
「佐助殿がここまで?」
「ごめんねー小山田の兄さん、さんを旦那に紹介したくてね」
そういって佐助と小山田とが幸村のほうへ視線をやると、幸村もまたこちらを不思議そうに見てきていた。ばっちりと目があったはずなのだが思い切りそらされてしまった。やはり女は苦手らしい。
「旦那、この人が客人だよ」
「…はっ、そ、そうであったか!」
がちがちになりながらも近付いてきて、幸村は勢いよく頭を下げた。
「小山田殿を助けていただき、有難うございました」
そういってから上げた顔は真っ赤でろくに話もできなさそうなほど沸騰しているように見えた。多々ある夢小説の中でもこんなことがあるらしいが、ナマで見てみると本当にゆでだこのようだし、こっちが心配してしまうほど出来上がっている。大丈夫なのか。
「某は真田源次郎幸村、甲斐武田に仕える武人でござる」
緊張気味になりながらも自己紹介をしてくれたのはうれしい。それがこの時代、いや、現代でもそうだろうがマナーだ。当たり前なのだろう。
「私はです。」
よろしく、と右手を差し出してみただったが、一向にその手を握ろうとしない幸村。少し遊んでみようと思ったのだが、やはり触れるのも無理らしい。
こんなにも初心だとは…それは確かに跡取りは気に掛けるかもしれない。
「はっ…破廉恥…ッ!」
逃げ出しはしなかったものの、茹蛸の顔はますます赤くなり、頭に血が集中しすぎて意識が聞飛んでしまうのではないかと心配するほどだ。人間はこうなっても倒れないのがすごい。というかそもそも人間だと判断していいのかは定かではない。