第4章 適応能力は低いほうです
しんとした室内。
はいまだ佐助のほうに振り返れずに背中を向け続けている。振り向けばどんな顔をしているのかわかってしまい、怖くなってしまうからだ。
もしかしたらもう本当に真後ろにいて、今度こそ少しでも動いたら苦無で刺されて殺されてしまうかもしれない。だったら恐怖を少しでも減らすべきだ。
「……ねぇ。こっち向きなよ」
向かないなら、と首の後ろを掴まれて軽々と引き上げられた。いや、持ち上げられたに近い。
立たされてふらふらとはっきりしない足取りでどうにか布団の上に立てた。
「あんた、名前は?」
「……。」
「まただんまり?」
別に好きで黙っているわけではない。その殺気をどうにかしまってくれなければ喋りたくてもしゃべれない。
先程まで小山田と話していたのに、相手が佐助となった瞬間口は不思議と開くのを拒否していた。相手が多くを語らないのならこっちだって何も言わずともいいだろうとそう思っているのだろう。
「別に教えてくれなくてもいいよ。名前なんて必要ないしね」
そういわれるとカチンとくる。まるで人間だと認められていないようなそんな不愉快さだ。
「アンタからは血の匂いがしない。いくら戦と関係のなかった姫さんでも親とか兄弟が戦にかかわってるから多少はするんだけど」
そうだ、は今までそんな事にかかわったことはないし、見たこともなかった。
だが死体に触れたことはなくともこちらに来てから何度か見たことはある。その匂いはしないのか。
「……猿飛さん」
「やっと喋る気になった?だったらまず話してもらおうか」
なにを、と聞こうとすると鋭い目をもっと細くしてにらみつけ、冷たく言い放った。
「何処から来た?」
…答えられず、首を横に振った。