第3章 これしかありませんよねわかります。
「誰か……?」
後ろからうめき声なのか獣の声なのかよく聞き取れない低い声が聞こえて恐る恐る振り返ると前頭部に切り傷を負って気にもたれ掛っている兵がいた。
「どう、なさいましたかー…?」
「おなご、でありましたか」
お見苦しい姿を見せて申し訳ないと頭を下げている。その兵は見たところと同じくらいの年ごろで、右手には刀を持っていて左手には旗のような布が握られている。色は燃えるような赤でもしこれが旗なのであれば赤い旗といえば武田軍だろう。それ以外は今思いつかない。
「怪我して、大丈夫ですか…?!」
「いやはや、もうそろそろ駄目かと」
弱弱しい声でそうつぶやくとその若者は目をつぶって大きく深呼吸をした。
は嫌な予感がした。恐らくこの若者はここで死のうとしている、いや、死んでしまうだろうと。これは人の死に直面したことがなければわからないというわけではない。本能的にこの若者はいま危険な状態にあるとわかった。
どうにかして生きていてもらいたいとは思った。
それはこの若者を助けたい、そういう気持ちも多少はあるだろうが、ただ一人になりたくないなどという自分勝手な思いなのだ。ここでまた一人にされてしまえばもうどうすればいいかわからない。
この若者に何かしら情報でももらえればと取りあえず手当を施すことにした。
「?!」
「痛いでしょうけどっ我慢してください…!」
泣きたいのは若者のほうのハズなのに自然と不安からなのか涙が流れ出てくる。
それを不思議そうに若者は見つめてはにかんだ。
「…この近くに確か横穴があったはず、そこで」
「わかりました、頑張っておぶりますんで」
「え?」
お互い顔を見合わせて理解ができないと首をひねる。
若者はにおぶって貰おうとは思っていなかった。これくらいの怪我なら何とかなると歩いて行こうと思っているらしい。
は若者をおぶって行こうと背中を見せてしゃがんでいる。人間一人をおぶれずにどうすると思いそうするつもりだった。
「いや、大丈夫です故」
「怪我人でしょう?私の体はお気にせず、さあ!」
「い、いえいえ、それは出来かねます」
恐らくこの若者は男だからとそういうことらしいがはまったく気にしていない。