第3章 これしかありませんよねわかります。
じっと待っていれば若者は勝手に行くだろうから近くにまで寄り、左腕をにぎった。
「ッ?!」
「壁をつたいながらなんて無理です。」
はどうやら左腕にけがを負っていることを見抜いていたようだ。先程から握った布を離そうとしないのは忠義心というのもあるだろうが痛みを我慢しようと何かを掴んでいなければやっていられないからというのもあるのだろう。
「…私、こう見えても力だけはあるんです」
「………で、は。」
渋々の背中に体重を預けた若者。身長だってのほうが確実に低いし体重も若者のほうが重い。しかも甲冑は壊れているものの身に着けているのだ。かなり重いだろうには平気そうな顔で背負う。
流石に心配した若者は何度か降りようとしたのだがは言うことを聞かずに案内だけしてくれとそれっきり口を開かなかった。
「はぁーーーっ」
「申し訳ありません、誠に…っ」
若者は頭を深く下げて土下座をした。はそれを慌てて止めて苦笑いをする。
「困ったときはお互い様、でしょう?」
そう言うとはい、と若者も苦笑いで返してきた。
そしてそこでようやく思い出す。
「あ、荷物。」
そういえばあの場に置きっぱなしだと慌てふためくと若者は笑顔で横穴に入ってすぐ横の岩陰を指さした。
「重さで、わかりませんでしたかね?」
「…はっ」
そういえば確かに男一人であそこまで重いというのだろうかと疑問を抱きながら運んでいたのだ。実は若者も怪我をしている腕にムチ打ってその荷物を背負っていたらしい。
はあまりにも必死だったため重さを気にしていちいちおろそうとは思っていなかったので全く気が付かなかった。
「結局あなたに迷惑をかけてしまいましたが…」
「いや、気が付いてくれなきゃ今頃闇の中でぼっちですよこの荷物」
ぼっち?と首をかしげているようだったが説明することなくはキャリーバッグから絆創膏やら消毒液やら綿棒、ガーゼなどが入った大きなポーチを出してきて、処置を施した。