第20章 喪失への恐怖が
同時刻、は裏庭でぼう、としながら空を見上げていた。
恐ろしい、怖い、逃げ出したい。そう思うのと同時にここにいれば助かるのではないかと考えるようになった。
幸村や政宗が力を合わせてここに斬りこんできたとして、勝機はどちらにあるのかなど分かり切っている。勿論、光秀だ。
「…来ないで、お願い、来ないで…ッ」
こう願うしかなかった。もし無謀な戦だとするのなら確実に死んでしまう。しかもまたのせいで死んでしまうのだ。そう考えれば自分の身がどうなってもいい、生きてほしい。そう願うのだ。
「どうすれば、いいんだろ…」
ふと、庭の木に止まっていた烏が目に入った。それがまるで佐助のように思えて、自分の意思を伝えてくれるのではないかと思えて、その木の下へ行く。烏は逃げることなくを見下ろしている。
「ねぇ、あなた、言葉がわかるのなら、下りてきて…?」
すると、やはり意思の疎通はできるようで烏は地面におりてきてくれた。
「下にね、真っ赤な男の人がいると思うの、その人に、これを渡して…!!」
烏の足に恐る恐る手を伸ばし、伝書鳩と同じように紙を結び付けた。きつく縛ったので、恐らく解けることはないだろう。
だが問題なのは文字が読めるかどうかなのだ。この時代と未来の字は極端に違うのを知っている。みみずのような文字で、全く読めない。
現代文字で解読ができるのかわからなかったが、取り敢えず無事だということと、帰ってほしいという事だけを記して烏を見送った。
「…そういえば、烏って色の判断できたっけ…」
烏が飛び立った後をじっと見つめてそんな事を思い出した。
くだらない、そんな事を思い出せるほどにはなんとか落ち着いたと自分自身で理解はできたが、まだこの場から逃げ出せるほどの力は出て来ない。
勝機のない戦ならば、さっさとどこかへ逃げてほしかった。
無責任な事をおもないながら、もう一度だけあの烏のこと思い出して祈ってみた。