第20章 喪失への恐怖が
その後、すぐに武田真田軍と伊達軍は合流して光秀がいると思われる屋敷へ向かっていた。
事情を聴いた政宗は悔しそうに顔を歪め、小十郎はそれを宥めた。
「正面突破以外道はありませぬ」
「んなこたァ分かってる、明智の野郎が抜け道を用意しているとも思えねぇ」
光秀の屋敷が見える丘に本陣をたて、そこで様子を見ることにした。
直ぐにでも突っ込んでやりたいと思っていたが、感情のままに刀を振るえば後悔してしまうようなことが誤って起きてしまうかもしれない。ので、待機という事にした。
「…あそこに、いるのか」
槍を持ち、今すぐにでも走っていきそうな幸村は深呼吸をしてその場に留まる。
「旦那、ちゃんは今明智光秀と共に行動してるみたいだ。下手に斬りこんで巻き込むようなことがあったら…」
「分かっておる、今は、様子見だろう」
怪我はしていないだろうか、悲しんではいないだろうか、暴行を受けているのではないか、まさか、辱めを受けているのではないか。
様々な不安が掻き立てられ、もう屋敷を見ることが怖くなってしまった。
光秀は人を苦しめるのが好きな人物だ、と幸村は聞いていたのだ。女のにまでそんな事をするのだろうかと初めこそ思っていたが、きっと奴は男女関係なく無差別に危害を加えるのだろうと考えた。
今迄の戦を聞けばわかる。民を雑に扱い、村でさえ滅ぼす時は女子供関係なく切り殺す。
「ッ…!!」
名を呼ぶだけで心が苦しくなる。こんなことは初めてだ。
信玄が怪我を負った時はそう簡単に死ぬわけがないと確信があった。
佐助がボロボロで帰って来た時は直に手当をしてやれば元気になった。
だが、今回は何の確信も得られていない。十分にを知らない。
だから今、どうなっているのかさえ正確にわからなかった。
怪我をすれば死んでしまうのではないか?
瀕死状態ならば光秀に潰されてしまっているのではないか?
余計な事ばかり考えてしまい、槍を握る手は震えていた。
「旦那…」
佐助は心配そうにそれを見守っており、余計な口出しはしなかった。