第20章 喪失への恐怖が
その願いが通じたのか、烏は佐助のそばにおりたった。
「…旦那ッ!!」
烏が咥えていた紙を一度開いて見、幸村をすぐに呼んだ。
一文字一文字がはっきりと書かれ、独特な、あまり見たことのない文章がつづられているそれは明らかにこの世界の人間ではないということがうかがえる。
そこから恐らくだろうと判断したのだ。
「どうした?!」
「これっ」
幸村に急いで渡すと、それをみて大きく目を見開いた。
「おい、何があったってんだ」
相変わらず気難しそうな顔で光秀の屋敷を見下ろしていた政宗は幸村を一瞥する。
幸村は驚きの表情を隠せないまま手紙を政宗に手渡す。
「こりゃ…」
「殿で間違いはありますまい」
「逃げろ…?」
生憎感じの部分しか読み取れなかったらしいが、なんとか意図はよめたらしい。
「勝機のねぇ戦を買うな、そういうことか」
「安全を確保した上での発言だとは思いますが、いつまでそれが続くかはわかりませぬ」
「一刻も早く連れ出してぇところだが」
光秀の采配は抜かりないものだった。
裏を突こうと山から下ってみようとしても木々に紛れ罠が仕組まれているし、正面突破は勿論の事屋敷の左右にも兵はこれでもかというほど配置されている。
これでは近づくこともできない。
「どうする、真田幸村」
「引くわけには…ッ」
確かにこれでは勝てる見込みなど全くない。実力差など一目瞭然だ。
だがどうしても勝たねばならない、乗り込まねばならないのだ。