第20章 喪失への恐怖が
「にしても派手にやってくれたなぁ…」
佐助ははぁ、とため息をついて半壊状態にある屋敷を見上げた。
「何故は明智などに…」
「椿を救いたければ付いて来い、と言っておりました」
「椿…?!」
その話から椿も共に誘拐されているということが分かった。
だが話の流れがおかしい、と幸村が勘付く。まるで椿が先に囚われているような物言いだ。
「旦那、多分椿は誰よりも早くちゃんを織田が狙っているっていうのに気が付いていたんだと」
「ならば何故それも主である俺や佐助に言わないのだ」
「…大きくしたくないってのがあったんでしょうねぇ」
そしてに認めてほしかったんだろう、と佐助は唸る。
「まさか、殿を手懐け、知識を利用しようとしているのでは…」
簡単に堕ちるわけがない、そうは思っていてもやはり不安なところはあった。
今迄戦というものに全くかかわりのなかった一人の娘が、突然あの禍々しい雰囲気が漂う城の中に入れられてしまえば、精神状態がまともでいられなくなってしまうだろう。
佐助が依然偵察に行ったときも、あんなに戦場を駆け巡っていた者でさえも気がおかしくなってしまいそうな所だと、そう判断したのだ。
そんな所に一人でいたとすれば、もう悪い方向にしか考えが進まない。
「早く助け出すのが得策だ、兎に角全軍戻り次第兵糧を蓄え出陣に備えろ」
「はっ!」
小山田は直に屋敷の奥に入り、城で待機中だった兵らに次の出陣に備えるよう指示を飛ばした。
「意志強きだ、きっと…耐えてくれるはず」
「織田方がどういう手段を使うかわからない、椿を囮にしてるくらいだから脅していう事を聞かせるっていう手もあると思いますよ」
「…無事であることを、祈るしかない、か…!」
幸村は六文銭を握りしめ、分厚い雲が晴れてくれることを祈るしかできなかった。