第20章 喪失への恐怖が
が光秀についていってしまった後、小山田は一人嘆くこともできずただぼんやりと消えて行ってしまった方向を見ていた。
「………殿…?」
はっと気が付き、すぐに城に控えている忍を呼ぶ。
「佐助殿にお伝えしてくれ、殿が連れ去られたと…!!」
「承知ッ」
それを聞いて普段は動じない忍びも目を見開いて声を少し大きくした。
まさか目前にまで迫られ、何もできないとは不甲斐ない。いや、それよりも何故光秀がを狙っていたのかを知りたかった。
…考えるまでも、なかったらしい。小山田には分かっているようだった。
「いつ情報が…?」
が先人だというのは武田、伊達、前田ぐらいのはずだ。だとしたら軍の中に敵がいたとしか考えられない。
「どうすれば、いや…今私が動いたとしても…」
そうだ、一人勝手に動いてしまえばあちらに思う壺だ、なんとか体勢を立て直して確実に救い出せる方法を考えなければならない。そしてそれを誰よりも望んでいるのはを想い慕っているのは幸村なのだ。
「小山田の兄さん!!」
遠くから声が聞こえて、顔を上げればこちらに大急ぎで向かってくる佐助、それと後ろから馬を飛ばしている幸村の姿が見えた。
遠くからでもわかる。相当焦っているようだ。
「小山田殿ッ!!連れ去られたというのは…!」
「…ッ、目の前で明智光秀と共に…!」
何故引き止めなかった、そう怒鳴られ殴り殺されるのは覚悟の上だった。
だが幸村はその様子も見せずに小山田に微笑みかけた。
「よく、生きていてくれた」
「…お咎め、は」
「小山田殿が生きておらねば誰がの事をつたえるのだ」
無理矢理笑顔を作っているのは分かった。今にも泣きだしそうなその目は誰も欺けない。