第19章 恐怖でしかない
ゆられてどれだけの時間が経ったのか、にはわからない。
隠し持っている携帯は電源を落としたまま、乗っている籠には窓など存在しない。外が明るくないという事しかわからなかった。
「…あの」
「は、はい」
外で籠を運んでいるであろう兵士に声をかける。
声をかけられたことに驚いたのか、若干戸惑いを含んだような声だった。
「何処へ向かってるんですかね…」
物物しい雰囲気なのは素人でもよく分かっているのだ。籠の中にいても急に圧迫されるような空気、まるで突然説教を始めた怖い先生がいる教室内のような空気の重さだ。
それが普通に感じれる場所なんて滅多にないだろう。粗方予想はついているのだが、聞くに越したことはない。
「明智様のお屋敷にございます」
「え?」
てっきり安土城に連れていかれるモンだと思っていたので、拍子抜けだった。
いや、ここで油断してはならないだろう。もしかしたらついた瞬間刺し殺されてしまうかもしれないし、何をされるかわからない。
それに椿の安否も心配だった。
単身で信長に挑もうだなんて、本当に何をしたかったのだろうとは少しイラつく。行くなら行くと一言言ってほしかったし、どうせ行くなら供をつければいいのに、、と。
「さて、長旅ご苦労様です。つきましたよ」
光秀が籠から降ろしてくれて、ふわふわとする足取りながらもなんとか地面に両足をつける。
「ここが、ですか」
「えぇ」
さぁどうぞ、と光秀は妖しげな笑顔で案内をしてくれる。
何ともご丁寧に客間まで準備していてくれたようで、はそこへ腰を下ろした。武田にいた時とそんなに変わらない部屋のハズなのに全く安らげないのは慣れていない人物の屋敷だからというのもあるだろうし、光秀がどんな人間なのかというのが分かっているからというのもあるだろう。