第19章 恐怖でしかない
小さな個室で、じっと息を潜めていると、目の前に誰かが飛び降りて来た。
「ひっ」
「ご安心ください、武田の忍びです。ここは危険だと小山田様が判断なされました、すぐにこの屋敷を私と共に出ましょう」
「え、で、でも、何処に」
「ここから北上できる抜け穴がございます、そこにお連れいたします」
その忍びは何度か顔をあわせたことのある忍びだった。震えるの手をとり、優しく誘導してくれるようだ。
「お、小山田さんは」
「後からくると言っておりました」
さぁ、と襖に手をかけた瞬間、目の前にいた忍びが崩れ落ちた。
一体何が起こったのかと、目の前で起こった惨劇に頭が追いついてこなかったのだ。
「え…?」
襖からは見覚えがある鎌が覗いている。どうやら襖ごと忍びをぶった切ったらしい。
下を向けば、首元をざっくりきられてしまっている忍びが横たわっていた。
「――ッ?!!」
ようやく処理が追いつき、後ろに後ずさる。
胃の底からすっぱい何かがこみあげてきて、その場に吐く。吐く。
「げほっあ、ッ、うっ」
顔を上げると鎌は見当たらず、その代わり誰か男がその血が滴る鎌を持っていた。
「初めまして…いえ、挨拶は不要ですね、。」
「あ、明智…光秀…ッ!」
嘔吐物がついた口元をぬぐい、唾と一緒にそのへんに嘔吐感を捨てる。
逃げようのないこの部屋で、この男の視界から生きて外れるなんて無理なのはわかっていた。