第18章 気持ちに嘘はつけません
「誰かに、恋い焦がれ、その者の為に帰ってくることだ。」
「…ゆき、むらさん」
名前を呟けば優しく、本当に弱い力で、を腕の中に閉じ込めた。
まるで、拒絶されても構わないというように。
「…以前にもこんなことがありましたな」
「そうでしたね」
「殿は己を悲観しすぎだ」
「ごめんなさい」
「…そこにも某は惹かれたのやもしれぬが」
「面白い事を、言うんですね」
「殿が笑ってくれるならいくらでもいうぞ」
「破廉恥基準が行方不明です」
お互いに抱きしめ合い、受け入れ、そして笑った。
「…この気持ちが早く分かっていたなら、出て行かれる前に言えばよかったと後悔しておる」
はそうですね、と頷いてくすぐったそうに笑う。
感情というものはとても面倒なものだと、思った。
ころころと移り行く、とても手におえない、自分でもよく分からないまま笑って泣いて、怒って失う事も出来たのにそれができないのは人間だからなのだろう。
きっと失った感情は戻ってこないだろうが、簡単に失おうとしてどこかに置いてくることはできない。
だが、感情というものは便利なものでもあった。
表情を生み、言葉を生み、行動を生む。
感情を失えばそれらはとても乏しいものとなり、何もできないヒトへと退化するだろう。
はそれらを大切に抱えていた。めんどくさいものほどいとおしく思えている。
「…あったかい」
溢れだしてくる涙は冷たいものではなく、暖かいものだ。