第18章 気持ちに嘘はつけません
「で、なんだってそんなに顔を真っ赤にさせてるんだい?」
「か、関係なかろうっ」
幸村と慶次は二人で幸村の執務室にいた。そこには夢吉もいて、楽しそうに花々と戯れている。
「日ノ本一の兵真田幸村が女に思いを馳せてるなんて…いやぁーやっぱいいねぇ!」
「な、なんでござるか…っ」
幸村は迷惑そうな顔で背中をバシバシと叩いてくる慶次を見た。
「…これが、恋なのでござるか」
だが、自らの心の靄が晴れたように少し微笑んで安心したような表情になった。
それを慶次は見て、思った。
戦好きで血を浴びているこの兵も、畑を耕している農民も、恋をする横顔は同じなのだと。
この横顔を全員持っているはずなのに、それを抑え込んで恋を捨てて戦をするなんてもったいなさすぎる。
幸せで、切なくて、そんな気持ちを忘れなければ戦なんてなくせるのにと。
「相手は勿論、ちゃん、だよな」
「…これが恋の気持ちだと、そういうのならばそうなのでござろうな…」
「どんな気持ちなんだい?」
すると幸村は恥ずかしそうに頭をかくと、唸ってから咳ばらいをした。
「殿を見ていると、なんというか…焦燥感に似たソレを感じることがある。胸の内が暖かく、時に熱くなり…落ち着けぬ」
「声を聞くと落ち着く、隣いるだけでうれしい気持ちになる…そうじゃないのかい?」
そう言えば幸村は静かに頷いた。
「それは恋だぜ、よかった。恋を知ってくれて俺は安心したよ」
「…前田殿、恋に現を抜かすのは軟弱なものだと思っていた某は未熟者にござった」
幸せそうに笑う幸村は、恋をするヒトの優しい笑顔だった。