第14章 母親の声が
暫く落ち着いて座っていると、小十郎に肩を叩かれた。
「そろそろ御越しになる頃だ」
そう言われて背筋をピンと伸ばしてみた。隣の小十郎にフッと笑まれ、そのまま視線を流して政宗を見た。先程よりもだるそうにしているところを見る限り、相当会うのが嫌なのだと思われる。
小十郎も先程まではやわらかい笑顔をしていたのに、もうしっかりとした武人の顔をしている。そんなに神経を使う人なのかと思えばの緊張もどんどん膨らんでいく。冷や汗がたらりと背中に伝う。
「義姫様が参りました」
義姫の家臣と思られる男が襖のむこうから声をかけてきた。
一瞬にして宴らしさが消え、室内が静まり返ると襖がゆっくりと開く。それにあわせて伊達軍の兵は頭を深く下げた。小十郎もそうしているのでも咄嗟にそうすべきと判断し、同じように深々と頭を下げた。
「…久しぶりじゃのう、政宗よ」
「……なんの用だ?」
「久々に会ったというのに冷たいものよの」
ケラケラと笑う義姫は頭を上げよと言ったので、小十郎が頭を上げるのを伺ってほぼ同じタイミングで前を向いた。
義姫は真っ黒な髪の毛で、切れ目の美しい女性だった。薄く微笑んでいるそれは偽りの物なのかというのは流石ににはわからなかったが、ただ、美しいという事実だけはよくわかった。
「相も変わらず騒がしい宴よ、ちと大人しくできないものか」
「これが俺達のやりかただ。文句があるなら帰ってもらうぜ」
政宗は反抗的な態度を止めないようだ。
言われた通り義姫とは目を合わせないようにしながら体だと意識だけを義姫に向ける。
だが目の前にいる義姫は残虐な母親には見えなかった。少々キツそうな性格ではありそうだが、…どうなのだろうとは探っている。