第10章 欲求
「エルヴィン団長。
今お時間よろしいでしょうか。」
その声を聞いて、
エルヴィンは改めて私の顔を確認した。
自分の顔が一気に不機嫌なものに
なっているのがわかった。
「あぁ、大丈夫だ。」
エルヴィンは立ち上がり、
着替える途中だった
インナーに腕を通しながら
ドアの向こうにいるモブリットに声をかけた。
「失礼します。
あ、着替え中にすいませ…」
モブリットは言葉の最中に
私に気付き、
少し驚いたのか
語尾が消えた。
「モブリット、何の用だ?」
エルヴィンが
その空気を遮るように
話し始めてくれた。
「あ、すいません。
この書類にサインをお願いしていいでしょうか。」
「あぁ……、わざわざ悪かったな。」
モブリットは思い出したかのように書類を渡し、
エルヴィンは書類に目を通して
さらさらっとペンを走らせる。
私は黙って片肘をつきながら
2人の様子を見ていた。