第3章 時には昔を思い出そうか
『ん…』
気だるい体をゆっくりと起こす。
携帯の電源を入れた。
『うわぉ…』
夥しいほどの着信の量と、絶句するほどの受信メール。
メールを開こうとすると、いきなり携帯が震えだす。
無論、言わずもがなの安定のあの人だ。
一瞬迷ったが、通話ボタンを押す。
『…はい』
土「…今どこだ」
『歌舞伎町の…』
土「どこだ」
『ビジネスホテル』
電話口で、大きなため息をつかれる。
私はベッドのシーツをギュッと掴んだ。
土「すぐ行くから待ってろ」
『ん…』
怒気を含ませたような声に背筋が凍る。
怒っているのだろう、乱暴に切られた携帯を握りしめ、また泣いた。
『っ…ふっ…』
ベッドから出ると、もう一度シャワーを浴びる。
腫れぼったい瞼は、顔を洗うぐらいでは治らない。
鏡とにらみ合うが、どうしようもならない。
隊服に袖を通している途中で、また電話がかかってきた。
土「何号室だ」
『302』
土「前に行ったホテルだよな」
『うん』
土「ったく…」
電話はすぐに切られ、控えめに扉がノックされた。
まだ、下着とワイシャツしか着ていなかったが、ためらいなくその扉を開いた。
土「!?」
『ごめん、ちょっと待ってて』
私の格好を見て、大きく見開かれた切れ長の目。
私はそれに気づかないふりをして中に招き入れる。
そのまま脱衣所に消えようとしたが、腕を引かれた。
後ろから抱きしめられる。
『ん…』
首筋に舌を這わされ、身悶えた。
熱い吐息が耳たぶにかかる。
そのまま…
『痛っ!?』
ガリ、と思い切り耳に歯をたてられた。
『耳がちぎれる!!やめんか土方ぁぁぁぁ!!』
散々暴れると、私の耳から痛みは消えた。
土「心配して迎えに来てやったってのに…」
『それについては感謝してる!』
土「で?来てみたらこんな誘うような格好しやがって…襲うぞ?」
先程まで噛まれていた耳を熱い舌を絡められる。
ピリッと痛みが走る。
『いた…い』
土「そうかよ」
『離せ!!隊服着替える!』
土「わかったわかった、暴れんな」
緩んだ腕の力。
私はするりと抜け出した。
そのまま脱衣所に駆けていった。