第3章 時には昔を思い出そうか
私はあるところで、立ち止まる。
『やっぱり・・・』
いつもならあるはずの船。それがないということは・・・
『夜右衛門にまんまとはめられてどうすんのよ』
そのまま向きを変えようと、後ろに足を踏み出した瞬間、すっと音もなく腰につきつけられる。
それは、紛れもなく白刃。
私に悟られず、ましてや背後に立てる人間は一人しかいない。
あえて刀の柄に手もかけず、無抵抗となる。
『なんの用?・・・晋助』
晋「背後とられるなんざァ、腕が落ちたか?舞鬼神」
アンタだからとられたのよ。そう言いたいのをグッとこらえる。
『その刀、外してくれる?』
晋「・・・」
『何もしない。それならいいでしょ?』
両手を挙げ、振り向くと久方ぶりの顔があった。
目線はほぼ、変わらない。
いや、それはおいておこう。
『急いでるんだけど?』
晋「相変わらずつれねぇ女だな、瑠維」
『つれなくて結構。用件は?』
私は晋助に柔らかな笑みを浮かべ、なるべく敵意を見せないように努力する。
晋「いい加減、戻ってこい」
『断る』
用意していた言葉を冷たく投げつける。
『私はここにいる。もうあの頃には戻らない』
晋「そんなに居心地がいいか?」
『ええ、そうね。少なくとも春雨よりは』
春雨よりは。
でも、あの時の方がずっとずっと・・・
晋「まあ、いい。一つ言っておくがなァ、瑠維」
『・・・』
晋「あん頃には戻れねぇぞ」
・・・そんなこと、わかってる。
晋「ついてこい」