第5章 過去………
優稀の顔を俯かせ、稟が言った言葉が彼の頭の中でリピートされる。彼の体が、カタカタと震え始め一粒の涙が、優稀の頬を伝う。
「頼む……から…………無事でいてくれ………。」
そう、今の彼は祈ることしか出来なかった。一方で、香李と蓮はひたすら歩いていた。特に、これまで大きな変化はなかった。優稀や稟の気配が全くしないのだ。周りをキョロキョロと見回すが、同じ風景なので同じ道を歩いているのではないかという、錯覚に襲われる。
「あ~も………あいつら、何処にいやがる!」
「……意外に広くて……困るよね。」
歩いているだけなので、やはり変化は訪れない。香李は、あ…という声を漏らして足を止める。蓮は、彼女が止まった事に不思議に思い彼も止まるのだった。どうした?と蓮が、香李に問えば彼女の口がゆっくりと動く。
「そういえば…前にね、ある友人から聞いた話だけど……。ある村が廃村になったって聞いたんだけど、もしかして……この村なのかな?」
「……………はっ…?なんで、知ってんだよ…そいつ………。」
流石の蓮は、目を丸くさせとても驚いていた。香李は、蓮の質問に首を振り知らない、と答えるのだった。
「独自に調べたらしいの。」
「……独自に?」
蓮が聞き返すと彼女は、うん、と頷いていた。彼は、少々驚いていた。すぐに、いつもの表情に戻して彼女に言った。
「それで、何が分かったんだよ……?」
「えっと、廃村になった理由が行方不明が続々と出たらしいの。」
行方不明?と聞き返す蓮。その事に対して頷く香李。蓮は、腕を組んでうーんという唸りをあげながら悩んでいた。
「…聞いたことねぇよ…。そんな話…。」