第5章 過去………
─香李─
さっきから、蓮が何処か遠くの方を見ていた為、不思議に思って蓮を呼びかけるが、返事が全くなかった。その時、私は無性に寂しく感じてしまった。何故だろうか…と悩んだが、答えは全く分からない。2、3回彼の名前を呼ぶとやっと、振り向いてくれた。本人は、大丈夫だ…と答えるのだった。
──蓮、貴方は何を考えていたの?
そう言おうと口を動かそうとするが、金縛りにあったかのように、口が言うことを聞かない。いや…動かないのだ。喉の奥の方で、言葉が詰まる感じがする。言ってはいけないと…脳がそういう指令を出したのかもしれない。
「わりぃ…。考え事してた。此処は、特に良いもんねぇみてぇだしな……。……行くぞ。」
「…え、う、うん……。」
蓮は、僅かに苦しそうな表情を浮かべていたが、すぐに元の表情に戻る。彼は、扉に向かって歩き始めた。私は、戸惑いながらも頷き蓮の後に付いて行った。私の脳裏では、何故蓮があの表情を浮かべたのか、よく分からなかった。
──蓮…どうして、苦しそうな顔をするの…?
私の気持ちは、モヤモヤとしていた。
─香李 終わり─