第2章 【目を丸くする話】
いつもの見慣れた僕の身体だ。
「顔はっ!?どんな顔してる!?」
「えっと、馬鹿面」
「良かった~このまま戻らなかったらどうしようかと…って、馬鹿面はないでしょ馬鹿面は!」
僕のツッコミに神薗さんは鈴が揺れるように笑って、つられて僕も吹き出して笑う。
こんなに笑ったのは、随分と久しぶりだ。
「それにしても、何で急に戻ったんだろう」
僕の独り言のような問いに、神薗さんは少し考えて仮説を述べた。
「……名前」
「え?」
「名前を名乗ったから、自分に戻れたんじゃないかしら」
………。
なるほど、確かに名前は自分のアイデンティティの確固たるものだ。名前を言って戻るなら、今まで自身を痛めつけてきた僕は何だったのか。
釈然としない気持ちになりながらも、これからは痛い思いをしなくて済むと思えば少しほっとした。