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遠い花

第2章 水


「百合ちゃん!」
練習が終わり少しの間、江ちゃんと話をしていると、着替えの終わった橘さんが駆け寄ってきた。
「じゃあ私はこれで!」
「…一人で…?」
もう日が暮れ始めているし危なくはないだろうか。
私の呟きが思わぬものだったのか、江ちゃんは一瞬不思議そうな顔をした。
「…あ。今日はお兄ちゃんと一緒に帰るので、大丈夫ですよ!心配してくれてありがとうございます!」
"お兄ちゃん"と、とても嬉しそうな顔で江ちゃんは笑った。
今日一日ずっと笑顔だったけど今日一番の笑顔を見て、なんだか少し得した気分になった。…久しぶりに女の子と楽しく話せたのもあるのかもしれない。
江ちゃんを見送ると橘さんと二人きりになった。
「…あの、お疲れ様です」
「ありがとう。百合ちゃんこそお疲れさま。俺が急に誘ったのに手伝いまでさせちゃってごめんね?」
「や…楽しかったです。誘ってくれてありがとうございました」
「そう?でも、楽しんでもらえたなら良かった。…元気、出た?」
「…え」
「真琴」
絞り出したような掠れた声は橘さんを呼ぶその声にかき消された。
「あぁハル!ごめんね、待たせちゃった」
「いい。帰るぞ」
スタスタと歩き出す七瀬さんに続いて駆け出した橘さんがはたと立ち止まり振り返る。
「百合ちゃん、帰ろう?」
振り返った彼は首を傾げながらふわりと笑った。その笑いかたはずるい。
…好きに、なってしまう。
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