第7章 “憧れの人”
「……いや、すまない。
少し取り乱した……
まさかナイルが試験中に受験者を
引き抜くとは思わなかったよ……」
「私も聞いた時は驚きました。
これは後から
憲兵団の料理人に聞いた話なんですが、
若くてやる気があって、
何より料理が上手いところに、
相当惚れ込んでいるようです。」
「なるほどな……」
エルヴィンから出た小さなため息を聞き、
ふと顔を上げる。
「だがそうなると、しばらくの間は
そう簡単に調査兵団の料理人にはなれない、
ということだな……」
エルヴィンの曇った表情を見ていると、
胸元に小さな痛みが奔った。
エマが調査兵団の料理人になれば、
リヴァイ兵長とエマが
うまくいく可能性が高くなる。
それでもエルヴィンは
エマが兵団に来ることを
心から望んでいたんだろう。
ミケの言っていた通り、
エマが幸せになればそれでいい
と考えているのかもしれない。
だが、その考えはあまりに悲しすぎる。
自分の好きな人の幸せを願う気持ちが
湧き出してくるのは
当たり前な事だとしても、
好きな人の幸せに自分が必要ないと
自覚することを考えると
どうしてもやりきれない思いがした。