第1章 7月7日
「だから?」
という問いかけが戻ってきて優菜は驚く。
「あれ?七夕のお話知ってる?」
「知ってるけど。」
知ってるけど、だから?って感じの返事。
男の子だから、しょうがないのかもしれない。
「そっか、七夕に雨降ると悲しくならない?」
「いや、特に。」
「私は、おとぎ話って分かっていても・・・やっぱり悲しくなるんだなぁ・・・」
別に自分を可愛く見せたい訳でもない。
ただ、七夕の話を子供のころに聞いただけ。
ただのおとぎ話。
けれど雨が降れば胸が痛む。
晴れればいいのに、と切に願う。
こんなちっぽけな想いさえ、打ち明けて共感してもらう人もいない。
宇宙人の、私。
空を見上げる。
この雨はどこからが雨で、
どこからが織姫と彦星の涙なんだろう・・・。
「ねぇ、ハルキくん。」
「なに?」
「この雨さ、しょっぱいのかな。」
「え?なんで?全然意味分かんねーよ。」
手を伸ばして屋根の下へと手を伸ばす。
容易に濡れた手を舐めてみた。
「味、しないや。」
現実の世界にまで「それはおとぎ話ですよ」、と諭されているような気がした。
それは当り前だけれど。
否定されたような気持ちになる。
・・・私には生きにくい、この・・星。
深夜2時。
そろそろお風呂にでも入ろう。
学校に行かなくなってから、すっかり昼夜逆転してしまった生活。
優菜は、
「オヤスミ。」
とぶっきらぼうに言ってくれたこの星のハルキくんに、お礼を言って窓を閉めた。
また、この世界とは時間も空間も切り離された一日が始まる。