第3章 引力
優菜の引きこもりは学校では病気のため長期欠席という話になっていた。
病気という括りでは間違いないが、まだ理解が少ない精神的なものではなく、身体的な病気として嘘をついて生徒たちには報告していた。
先生や親が、いつでも復帰しやすいようにとそういうことにしたのだった。
1年の時に親友だった香織にすらそういうことになっている。
・・・・どうしよう。
どこからか勝手に年下じゃないかと決め込んで、すっかり勘違いしていた。
同じ中学生だったなんて。
確か昨日・・・色んな事話しちゃったし。
今もこんな風に元気に会話して・・・病気だなんて思ってくれるだろうか・・・。
もしも、彼が私がただの精神的な引きこもりだと皆に話してしまったら・・・
引きこもりの自分への、周囲の冷たい目を想像して不安が襲う。
自分の手が冷たくなっていくのを感じた。
・・・・。
「あ・・・あの・・・」
何から話せばいい?
両手を胸の前で握った。
バクバクと打つ心臓の音に、少しパニックになりかけている自分が居る。
・・・自分の意志とは関係なく心が暴走し始める。
止まれ、動悸!!
焦れば焦るほど・・・体調は崩れていく。
ぐっと腹部に差し込むような痛みが走る。
自分自身がコントロールできない。
思わずしゃがみこんだ時だった。
「どうした?大丈夫か?」
聞こえるのは、私を気遣う声。
向こうからはしゃがんだ私の姿が見えているのかもしれない。
「・・・・うん。・・・大丈夫。」
悟られぬように
俯いていた頭をゆっくりと起しながら答える。
しっかりしないと・・相手に変に思われてしまう。
それだけは避けたかった。
「・・・優菜・・・?」
――心配そうに私の名を呼ぶその声に。
なんでもない、ちょっと体調が悪くて。
と一言言えばよかったのかもしれない。
そしたら何一つ心配することもなく、私は体調不良の、「病気の女の子」で終らせられるってことは分かっていたんだから。
けれど私は・・
私の心は・・・
『私の世界に触れたい』と言ってくれたその人の声を振りほどかなかった。
それどころかその声に急激に引き寄せられるようにして、
助けを求めていた。