第1章 碧に吸い込まれる
ㅤこれも何かの縁と思った私は、その話を引き受けることにした。
◇◇◇
ㅤ正直親のコネ感は否めないが、与えられた仕事はきちんとこなしたいというのが、今の私の嘘偽り無い気持ちだ。
──という訳で私は今、大豪邸の前にいる。
ㅤ父の車で送ってもらったが、これだけ目立つなら自分一人でも来られたな、なんて思いながら、心配する父をなんとか仕事に送り出して今に至る。
(にしても大きすぎじゃない……?)
ㅤあまりの迫力に少々圧倒されてしまったが、ここで引き返すという選択肢は無い。
ㅤなんとか気持ちを奮い立たせ、私は目の前のチャイムを押した。
──冒頭でも言った通り、私の世界は父親だけだった。
ㅤだから正直に言うと、私もそれほど人付き合いが得意な方ではない。
ㅤなので私としては、12歳の男の子と仲良くなれるかどうかという心配より、お手伝いさん達に嫌な印象を持たれないかという不安の方が大きかった。
ㅤ結果次第では、私がここでの仕事を長く続けられるかどうかに関わってくる。
ㅤ充分に死活問題だ。
(……何より父のため)
ㅤ私がここで何か揉め事を起こせば、父の職場での立場も危うくなるかもしれない。
ㅤ戦場に赴く兵士、それくらいの覚悟でこの場に居る私だったのだが……、
「いやー、こんなに若い子が来るなんて思わなかったわぁ」
──…何だか気が抜けてしまった。
ㅤ同年代の人は一人も居らず、お手伝いさんは優しそうなオバ様達ばかり。
ㅤなんでも昔からここで働いてる人達で、人見知りだという息子さんが産まれてからは一人も新しい人を雇っていないらしい。
ㅤそこまで人見知りを拗らせているのか、とも思ったが、とりあえず第一関門は突破した。
ㅤ因みに息子さんはまだ学校に居るらしいので、私は彼の帰りを待っている間、仕事内容の確認や部屋の案内をしてもらった。
ㅤ息子さんが学校に行っている間は、オバ様達と同じく屋敷の掃除やお手伝い。
ㅤ帰って来たら人に馴れさせる練習と、できれば勉強を見てもらいたいと言う。
ㅤ少々不安だが、中学生の勉強ならなんとか教えられるだろうと思い、その申し出も了承した。
(この調子で息子さんとも仲良くなろう!)
ㅤ私は時が来るのを待ちながら、まだ見ぬ息子さんに思いを馳せた。
◇◇◇