第4章 第1層~第10層 その3 "再起"
リリィ達が去ってから数時間後―
助けられた少年、シモンは目を覚ました
「………」
知らない天井
現在のカミナに近しい人物達のねぐらとなっている宿屋の一室で、シモンはベッドに寝かされていた
数秒して、気絶する直前の記憶を、彼は思い出す
(そうだ…)
助けられた
その事実が、彼を惨めにさせた
彼の慕う兄貴分―カミナの死を目にして、彼の胸中に何らかの亀裂を産み出した
後にあるのは、八つ当たりのような憤怒―尤も彼は、それが半分八つ当たりである事には気付いていないし、当然全く発散出来ない
「クソッ…」
短く呟き、拳が布団に窪みを作る
行き場の無い怒りが、彼をもう一度突き動かす
しかし、それは行動までには至らなかった
「失礼します」
聞いたことも無い声が部屋に響き、見たこともない人物が部屋に入ってきた
女性―見れば分かるが何者だ?
元々気の弱い彼は同時に警戒心も持ち合わせている
だから彼女の風貌を訝しげに見る事になる
自分と同じくらいの年齢だろうか、しかし背中までの―何処かで色を変えたのだろう水色の髪は柔らかそうに広がり、波打ち、たゆたっている
「初めまして、私先日皆様と行動を共にする事になりました、ニアと申します。良かったら、お茶でもしながらお話しませんか?」
そう言って、ニアと名乗った彼女は手元のパンを差し出す
それに対して、よく分からないという呆けをシモンは見せるしかなかった