第25章 第41層~第50層 その2 "Love"
「危ねぇな、分かってたけどよ!」
ケンタがボヤいている間、私はトーマを注視していた
何をするか分からない――故の警戒、と言って良いだろう
だが、トーマは黙ったままボスを見続けているだけだった
見続けているだけという事は何もしていないという事
敵に何かをさせる隙を与えるという事だ
口でもあるのか一転に光が集中している
だが――
「黙れ」
――その光ごと、トーマはボスを踏みつけた
霧散する光、痛みを表すようにボスが戦慄く
「黙れ」
戦慄きすら踏みつけるトーマ
だがダメージを与えるという事は痛みを与えるという事
更なる痛みにボスは喘ぐ
しかし、トーマの返答は振り上げた拳だった
「テメェだ」
短く口にすると同時に拳を放つ
「テメェだ」
もう一度、拳が放たれる
「つまんねぇ真似しやがったのは……テメェだよなぁ!!」
三度目の拳は、まるで床ごと抜くような勢いで放たれた
「俺が! 欲しいのは! チンケな淫売じゃねぇ! こういう瞬間だろうが!!」
一言一言と同時に放たれる拳
成す術なくボスはそれを受け続ける
戦慄きも何もなくなり、まるで本物の生き物であるかのように痙攣を始めた
だがそれでもトーマは、拳を止めなかった
「何もかも違ぇ…今までで一番余計な事しやがった……だからよ――」
もう一度振り上げた拳にはブーストがかかっていた
「――何処の世界からも…消え失せろ!!」
そのまま拳は振り下ろされ、ボスに直撃
掠れるような声を響かせてボスは砕け散った
空間が元の意匠に戻り、戦いが終わった事を告げる
周りには眠るように倒れている多数のプレイヤー――何事もなかったかのように、いつも通り服を着ていた
「チッ……」
立っているのはたった三人だけ
その内の一人であるトーマは、ハッキリと舌打ちをして去っていった
異常な世界での戦い
それを切り抜けた先に待っていたのは、"何故彼がそこまで怒りを顕にしたか"であった