第20章 第31層~第40層 その2 "彼と彼女の一日"
同日夜―第二層の町外れにある教会
月明かりだけが照らす部屋の中に長身の神父、ヴァレリア・トリファがいる
彼は何をする事もなかったが、自身の後ろに現れた気配に気付き口を開いた
「まさか貴女が先陣を切るとは思いませんでしたよ、リザ」
彼の後ろにいたのはリザ・ブレンナー
シスター風の服装は変わっていないが、その眼光は普段の柔和なものではない
「……次はイザークに取らせるわ」
短く述べられた言葉にヴァレリアは漸く振り返る
「成程イザークですか。その為に先に貴女が動いたと」
リザは答えない
しかしそれがヴァレリアにとっては最大の回答であった
「しかしイザークは黒円卓の中でも特殊かつ重要な立ち位置…そのイザークが取るともなれば、あの血気盛んなベイ中尉も矛を収めてくれるでしょう」
リザは言いたい事は終わったとばかりに、部屋から去ろうとヴァレリアに背を向けた
「リザ――」
その背にヴァレリアが声をかけ、彼女を引き留める
「今更後悔は出来ませんよ。始まったものは完遂されるか、破綻するかしかないのです。故に、貴女が振り返る―省みる事などないように」
「……分かってるわ」
相変わらずの短い反応だけでリザは部屋から出ていった
後に残されるのはヴァレリアのみ
「しかし、貴女の本心は…本質は、どのようなものでしょうかね」
月明かりを背に受ける彼の表情は暗く、読み取る事は叶わない
だが、その目に宿るものが尋常ならざるものであると言わざるを得なかった
この数刻後―
聖槍十三騎士団により三十四層がクリアされた