第19章 第31層~第40層 その1 "Chase"
多くのプレイヤーがボスを倒し、次の舞台へと移る中―彼等はその場にいた
禍々しさすら見える歪んだ剣を持つ金髪の少年、ウェンドロ
兄を殺し、それからも幾人もの人間を殺した少年は今しがた自らに襲いかかった敵を倒した所である
本来ならば苦労はしない敵の筈が異常なまでに疲労を感じている
彼にはその理由が分かっていた
つい先程前から彼と共にいる人物が原因だ
「アレ、どうしちゃったのさ?」
まるで心配していない軽い口調
小洒落た帽子、ストールを着けた青年
余りにも格好が現実に近い為、逆に周りから浮くだろう
「どうしたもこうしたも、貴方のせいでしょう」
恨みがましい視線をウェンドロは彼に―正確には彼の持つ武器に向ける
彼の持つ武器―片手剣ように彼は基本的に使っているが、その本性は剣ではなく笛
余りに突飛だが、間違いなくこの世界に存在している武器だ
何処ぞで手に入れたレア武器らしいそれは、"操る"という属性を持っている
モンスターも、当然人間もだ
「ちゃんと耳栓した?」
この能力、誰かと共にいるには少々不便
故に耳栓が必要なのだ
「使ってるに決まってるでしょう」
それでも彼の演奏時、ウェンドロの頭には酷い頭痛が襲う
だからこその抗議なのだが、言われた彼はどこ吹く風であった
「じゃあ大丈夫だと思うから、頑張ってよ――上原弘樹クン」
囁かれるはウェンドロの実名
教えた筈の無い正確な情報に、ウェンドロは苛立ちを更に覚えていった